友人から、今度の集まりには行けそうにないと連絡が来る。短い文面を見て、少しそっけないなと思う。けれど、こちらに見えているのは、その人の一日のうち、送信ボタンを押した数秒だけかもしれません。
自分の知らない事情に思いを向けること。『ハリー・ポッター』の作者、J.K.ローリングは、想像力を物語の中だけの力としては語りませんでした。
今日の名言
人は、想像の中で他の人の立場に身を置くことができます。
J.K.ローリング/ハーバード大学卒業式スピーチ、2008年6月5日(本記事訳)
魔法の物語を書く人が語った、もう一つの想像力
原文は “They can think themselves into other people’s places.”。直前の文にある人間を指す “They” を、日本語では「人は」と訳しています。
ローリングは卒業式のスピーチで、失敗と想像力という二つのテーマを選びました。想像力については、存在しないものを思い描く力だけでなく、自分が経験していないことを生きる人に共感する力でもある、と説明しています。
その背景として語ったのが、ロンドンのアムネスティ・インターナショナルで働いていた経験です。人権侵害の証言に触れ、また、同じ経験をしていない人々が支援のために行動する姿を知ったと述べています。
今回の一文は、その文脈にあります。空想すれば願いがかなう、という意味ではありません。他者の置かれた状況を理解しようとする想像力の話です。また、その力は人を操るためにも使えるとして、無条件に美化してはいません。
分からない部分を、決めつけで埋めない
ここからは、その大きな主題を身近な場面に重ねた、本記事独自の考察です。友人とのやりとりと、スピーチで語られた人権問題を同じ重さで扱うものではありません。
たとえば、集まりを断った友人には、疲れや家族の用事があるかもしれません。ただ、想像できるからといって、こちらが事情を当てられるわけではない。忙しいに違いない、気を使わせたに違いないと、別の物語で決めつけてしまうこともあります。
だから、この言葉を日常で受け取るなら、相手の事情が分かったつもりになるより、まだ見えていない部分があると気づく方が近い気がします。
残念に思う気持ちは、そのままでもいい。相手に必ず共感しなければ、と自分を追い込む必要もありません。自分の気持ちと、相手についてまだ知らないことは、両方あってよいのでしょう。
一通の連絡の向こうにも、一日がある
物語を読むとき、私たちは主人公が見ているものをたどります。実際の相手には、作者が説明してくれる地の文がありません。
短い連絡の向こうに、まだ読んでいない時間がある。その余白を残したまま、今回は残念、また会おうねと返す。そんなやりとりも、この想像力の小さな使い道かもしれません。
出典・参照
Harvard Gazette, Text of J.K. Rowling’s speech, June 5, 2008. スピーチ題目:The Fringe Benefits of Failure, and the Importance of Imagination。
引用原文:They can think themselves into other people’s places. 日本語訳は本記事による独自訳です。小説中の台詞ではなく、本人の卒業式スピーチの一文です。導入と友人の例は説明用の創作です。日常への読み替えは本記事独自の考察です。
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