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「素直な心とは、いいかえれば、とらわれない心である。」
松下幸之助『実践経営哲学』より(PHP研究所掲載)
「もっと素直になったら?」
そう言われると、少し身構えてしまうことがあります。反論しないこと。相手に合わせること。嫌でも、はいと答えること。
素直という言葉を、そんなふうに受け取っていた人もいるかもしれません。でも、松下幸之助さんが語る素直な心は、少し違います。
素直さは、従順さとは違う
PHP研究所は、松下さんのいう素直な心について、何でも受け入れる従順な心ではなく、偏見や私心にとらわれず、曇りのない心だと説明しています。
つまり、誰かの言うことを全部正しいとするのではなく、自分の思い込みまで一度脇に置いて、目の前の物事を見ようとすること。
私はそこに、柔らかさと同時に、強さも感じます。
相手を否定するのも、自分を否定するのも、すぐにはしない。まず確かめる。そのひと呼吸が、今日の言葉につながるのではないでしょうか。
「いつものあの人」で決めつけていないか
たとえば、職場で誰かから改善案をもらったとき。「でも、その人は現場をわかっていない」と、内容を聞く前に結論を出してしまう。
逆に、尊敬している人の意見なら、内容を確かめる前に「さすが」と思ってしまう。
私たちの頭の中には、意外と忙しい受付係がいるようです。話の中身より先に、相手の名前を見て通すかどうか決めている。
もちろん、これまでの経験も大切です。ただ、経験が役立つことと、いつも同じ判断でよいことは別でしょう。
「誰が言ったか」を少し離れて、「何を言っているか」を聞いてみる。すると、苦手な人の言葉にも、一つくらい使える部分があるかもしれません。
考えを変えるのは、負けではない
自分が間違っていたと気づくのは、あまり気持ちのいいものではありません。
さっきまで自信満々だったぶん、引っ込みがつかない。説明を足すほど、言い訳みたいになる。そんな経験は、誰にでも思い当たるのではないでしょうか。
でも、「なるほど、その見方もあるね」と言えたとき、失うものばかりではありません。自分一人では見えなかったものが、一つ増える。
素直な心とは、自分の考えを持たないことではなく、自分の考えを更新できること。私は、この言葉をそう受け取りたいと思います。
相手に合わせるためではなく、よりよく判断するために、心を少し開く。
今日、誰かの言葉に「いや、でも」と返したくなったら、その前に一度だけ、「そういう見方もあるのか」と考えてみる。
素直になることは、自分を小さくすることではない。見える世界を、少し広くすることかもしれません。

